3月11日~3月18に開催されたAustralian Exploration Geoscience Ceonerence 2023に参加しました。
弊社はUAV(ドローン)を利用した空中磁気探査を行っています。
今回、本会議に空中磁気探査のワークショップが用意されていたため、現状を知るために当ワークショップに参加しました。
本ワークショップの概要とともに、空中磁気探査に関する現在のトレンドについて、弊社の感想とともにご紹介します。
ワークショップ名:GEOLOGICAL INTERPRETATION OF AEROMAGNETIC DATA
提供元 : Southern Geoscience Consultants
ワークショップ名にあるように、現場実務者向けのセミナーでした。
磁気探査データを利用した地質構造の推定に関して、調査計画から地質構造推定に至るまでのプロセスについて、理解すべき原則や注意点について講義形式でのレクチャーが行われました。
また、実際のプロジェクトを参考として講義は進められ、磁気探査データを利用した最終的な成果として、
「金属資源のポテンシャルエリアを絞り込みを行う」ところまで系統的にレクチャーを受けることができました。
AEGCにおいては、空中磁気データを利用できる、もしくはデータを取得できる企業や研究機関をいかに増やすか、ということが課題となっていました。
これら企業・研究機関を増やすことで、オーストラリア全体の土地利用に関するアイデアや機会をいかに増やしていけるか、という基本的なポリシーが共有されたうえで講義が設定されているようです。
講義を行うのは民間企業の現場技師、彼らは現場の実際のプロジェクトを例として、そのノウハウを惜しみなく提供しているように弊社からは見えました。
一方、地下構造の推定において空中磁気探査を行った場合、本当の意味で重要となる地下構造について、いわゆる3次元インバージョンのノウハウについては講義はありませんでした。
終了後に弊社が個別で参加者にヒアリングしたところ、この点についてもレクチャーがあると期待していた参加企業が少なからずいたようです。
しかしながら、磁気探査を国内のみで実施している弊社の視点からみると、知見やノウハウの共有について信じがたいほどにフラットでかつオープンな環境が用意されている印象を持ちました。
前置きが長くなりましたが、本ワークショップの内容、参考になる文献などを簡単にご紹介します。
本件の詳細についてご興味のある方は、別途お問合せフォームよりご相談下さい。
今回のワークショップでは、空中磁気探査の理解、原理・原則についてSEG (Society of Exploration Geophysicists) が提供している教本がベースとなっています。
教本: Geological Interpretation of Aeromaginetic Data ( しばらくの間、以下URLからフリーダウンロードできるそうです)。
Download URL : https://www.aseg.org.au/sites/default/files/ebook-ASEG-eBook-Geo-Interpretation-of-Aeromagnetic-Data-Opt-for-user-1621.pdf
私が見る限りでは、空中磁気探査の測定自体は外部発注し、得られた測定データを利用した解析を行う立場の方であれば、
基本はこの一冊を理解すれば測定データの検証から解析まで行うのに十分だと思います。
※教本として紹介されたSEGの資料
ワークショップでは主に以下の2項目について基本的な説明とともに、業務シーンを参考にレクチャーが行われました。
1 空中磁気探査の概要・基本的な磁力に関する物理特性と空間的特性
2 地質構造推定までのプロセスについて、実際のプロジェクトを参考とした詳細レクチャー
1 空中磁気探査の概要、基本的な磁力に関する物理特性と空間的特性についての講義
探査における空中磁気測定の位置付けついて、あくまで地質構造を推定するために利用する「地質図を作成するためのツール」であることを理解するところから始まりました。
そして地球磁場を含めた磁力に関する物理的特性について講義がありました。
上記の基本的な説明があったのち、測定対象地域の地質構造の理解をもとに、「地質に関係する物理特性として磁気分布を観察することが基本であり原則」であることが実際のプロジェクトを例に強調されました。
(ワークショップ中に何度も同様の地質に関連する物理特性として理解を進めるよう注意が促されました)
そして以下3点が、衛星画像解析や他の物理探査(地震波、重力値、電磁探査)と比較して基本的な特徴であることが紹介されました。
・衛星画像解データの取得に比較し空中磁気探査測定は測定が簡便である
← 衛星画像解析は物理探査とは別の領域です。この分野に知見がある弊社ではそうは思いませんでした・・・、特に日本はこの分野が進んでいるためです。
・測定値の取扱いがしやすい(※測定・補正が正しく行われていることが大前提)
← 確かに測定値自体は取扱いしやすい(処理の手順がほぼルーティン)のですが、
実際の測定を行う弊社にとっては、測定・補正を正しく行う方法もレクチャーしてもらえればと思いました
・磁性鉱物との関連性を検討することで地下深部(の磁性的な)構造まで推定・描写ができる、結果として探査のごく初期の段階で鉱体の有無とともに形状を推定することが可能である
← 3次元的な解釈・解析方法までは今回のワークショップではレクチャーはありませんでした。
ここまでの記事の内容だと、「物足りなかった内容だったのだろうか」、と感じる方もいるかもしれません。
ただ、この後に実際のプロジェクトを用いたレクチャーが用意されていて、弊社のような新規参入企業には十分すぎるほどの内容とボリュームでした。
本ワークショップは1日でしたが、参加者のために用意されたワークショップ用資料は、後日でも参加者が理解できるように300頁近いボリュームとなっていました(参加者のみに公開)。
また、ワークショップの受講者に対して後日、相談や質問を受け付けるというサービス付きでした。
2 地質構造推定までのプロセスについて、実際のプロジェクトを参考とした詳細レクチャー
オーストラリアの実際の探査プロジェクトを例に以下の3点のレクチャーがありました。
・測定の適切な計画方法
・測定磁気データの処理方法(極補正、フィルタリング、1D、2D処理など)
・処理して得られた各種磁気異常図(TMI,RTP,AnSig)の利用方法、特に磁気異常についての理解とともに
測定の適切な計画方法のレクチャーについて、調査対象地域と対象物(鉱床のタイプ)をもとに、「求める解釈用図面スケールを決めること」が最も優先される事項であるとの説明からはじまりました。
スケールが決まれば、次に経験則から一般的な値として測定における基本の仕様を決めることができます。
測定高度は50~200m、測線間隔は求める図面スケールにおける1㎝の側線間隔をとり、グリッドデータ作成時の内挿距離は側線間隔の10-12分の1程度とのことでした。
この場合、測定高度50m、1/5,000スケールの図面で表現したいときは、側線間隔は50m、グリッド幅は5m程度といったところであればスケールに合わせた解釈にたるデータを得られるということです。
※解釈したい範囲と測線間隔、コストの考え方について示した図(※10ドルは仮のコスト、実際の測定単価とは全く異なります)
「測点間の間隔」についても考え方を聞きたかったのですが、ついていくのに精いっぱいで、このタイミングで質問することができませんでした。
後ほど講師に聞いてみたのですが、飛行速度と測定器の仕様で検討するべき、とのことでした。実際の基準値はないとのことですが、弊社が行っている5m/s程度の速度でかつ、測定器が20Hz(1秒間に20回測定)の仕様であれば十分すぎるだろうとのことでした。むしろ測「点」間隔が非常に密(25cm間隔)となるため測線間隔については、講義した時の間隔より短くした方がより良いデータとなるかもしれない、とのアドバイスをもらいました(その理由についてはよく理解できていないのですが、おそらく測「線」方向のバイアスを減らすことを検討した方が良いという意味と捉えています)。
また、実測定のエラー許容値について測線における許容割合と許容値についても聞きそびれてしまいました。
こちらは帰国中の飛行機内できづいてそのままです。
測定器によってはその測定角度や磁場の急激な変化によって磁気勾配の異常値が生じ、測定エラーとして処理すべき値がでます。
例えば、移動機(弊社ではドローン)の測線を移る際のターン時には測定器が振り子運動を生じ、結果として磁気勾配の異常値が生じて「測定のロックが外れた状態」となり、これら値を測定データから除外しています。測線内においても急激な高度変化を生じる点や突風などの風の変化で測定器のロックが外れることもあります。
このようにフライト時に100%の割合で正常値をとることはできないのですが、では何%以内であれば許容されるのだろうかという疑問を解消できていません。
クライアントには測線において100%を目指すが、80%を切った場合には相談の上、再フライトするといった具合で相談しています。
やはり良いデータを取りたいので、現状では少なくとも測線間のターン時の影響を最小限にする対策として、仕様範囲の10~15%広い範囲を測定しています(広いほど工数的にキツイ条件となるので大きな問題です)
また、この流れで飛行機、ヘリコプター、ドローン、徒歩における測定の㎞単価について比較した結果を提示されました。
オーストラリアは日本とは探査に関する考え方が全く異なるため、一概に単価を鵜呑みにはできませんが驚くような単価結果でした。
単価については、ここでの言及は避けたいと思います。
ただ、提示された単価はあくまで測定単価であって、直接経費や解析処理費などは含まれていないようでした。
また、最小の総測線長として、飛行機・ヘリコプターは500km,ドローンは200km、徒歩は50㎞でした。
弊社のドローン磁力測定機材の測定仕様(高さ50m、測線間隔50m)だと測定範囲は10平方㎞の計算です。
地形や天候、フライト基地の設置可能場所に大きく左右されますが、現状の弊社の練度ですとおおよそ6~8日程度の測定日数となります(タイラインは含めていません)。
オーストラリアではドローンに関しては200kmであれば2~3日で測定できる距離だ。とのことでした。
ただその後、実際に測定業者さんに聞いたところ、実際にはもう少し工数はかかるようでした。
それに加え夜間も飛行させるのが当たり前で24時間体制で実施しているということです。
見せられた映像をみて、広大な砂漠地帯では可能だと思いました(むしろ条件的には夜間の方が良いのだろうなと思います)。
測定の計画だけをとってもこれだけの情報量がありました。
データの処理方法、図面の解釈方法はさらに質・量ともに充実しています。
この記事では紹介しきれないほどのボリュームのため、ご興味ある方は別途お問合せフォームよりご質問下さい。
※フィルタリングの内容と図面から読み取れる情報についてのレクチャーに利用された資料
※同一地域・範囲における各種磁気異常図の比較図
何を読み取りたいかで様々なアプローチ方法があり、どれを選ぶべきかその考え方のプロセスについてレクチャーを受けることができます。